top of page
森田周平さんの本棚
奇妙な孤島の物語
ユーディット・シャランスキー(著),鈴木仁子(訳)『奇妙な孤島の物語ーー私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島』河出書房新社2016年
孤島というと無人島や島流しの離島など、大海原にひっそり佇む小さな島を浮かべるでしょうか。そもそも島の本って面白いの?孤島に何か書くことがあるの?と思われる方もいるでしょう。この本では、世界の50の島を取り上げて、探検家の受難、人々の暮らし、歴史の1ページとなった出来事など、ひとつひとつの島にまつわる物語を綴っています。
著者は、東西ドイツに分かれていた冷戦時代の東ドイツに生まれた作家。地図でしか海外の情報を知ることができなかった時代に、孤絶した孤島の魅力にはまった人でもあります。
美しい島のイラストの横にはそれぞれの島の物語が1ページごとに紹介され、イラスト本としてゆっくり眺めるのも良いです。以前に行ったカナリヤ諸島やマディラ諸島も中々の孤島感はありましたが残念ながら載っていませんでした。プカプカ島、ピンゲラプ環礁などなど、行ったことのない島に思いを馳せてはいかがでしょう。
孤島というと無人島や島流しの離島など、大海原にひっそり佇む小さな島を浮かべるでしょうか。そもそも島の本って面白いの?孤島に何か書くことがあるの?と思われる方もいるでしょう。この本では、世界の50の島を取り上げて、探検家の受難、人々の暮らし、歴史の1ページとなった出来事など、ひとつひとつの島にまつわる物語を綴っています。
著者は、東西ドイツに分かれていた冷戦時代の東ドイツに生まれた作家。地図でしか海外の情報を知ることができなかった時代に、孤絶した孤島の魅力にはまった人でもあります。
美しい島のイラストの横にはそれぞれの島の物語が1ページごとに紹介され、イラスト本としてゆっくり眺めるのも良いです。以前に行ったカナリヤ諸島やマディラ諸島も中々の孤島感はありましたが残念ながら載っていませんでした。プカプカ島、ピンゲラプ環礁などなど、行ったことのない島に思いを馳せてはいかがでしょう。
作家の酒
池部良,小松左京,吉田暁子ほか『作家の酒』平凡社2009年
お酒とのお付き合いは学生時代に居酒屋デビューして20数年。社会人になって先輩たちにもいろんな店に連れて行ってもらいました。今では、一人で馴染みの店に行き常連客のたわいもない話を肴に飲むこともしばしば。酔客もいろいろいて、サクッと飲んで颯爽と帰る人、ビールに日本酒、焼酎と一通り飲んで笑顔でケロッとした顔で帰る人。見ているだけでも面白いもんですが、作家にも酒飲みが多いようで、蕎麦屋で粋に飲む池波正太郎の「人情酒」、元々は下戸だった赤塚不二夫は朝でもプールでも飲む「レロレロ酒」、名匠小津安二郎は日本酒とおでんを愛した「底なし酒」といった具合。あの名作の裏にはあったのかと思わせます。写真もたくさんあって、文豪や名監督、エッセイストなどそうそうたるメンバーの馴染みの店や自宅で飲んでいる風景が浮かびます。自宅で飲む機会が増えた今、晩酌しながら読むのも面白いでしょう。
雪男は向こうからやって来た
角幡唯介『雪男は向こうからやって来た』集英社2011年
こどもの頃、UFO墜落、ミステリーサークル発見やネス湖でネッシーを追うといった番組をテレビで見るたび、本当にいるんじゃないか?!と思っていた一人でした。(今もちょっと信じている。)本書は、ヒマラヤで発見された雪男(イエティ)の目撃情報をきっかけに、未知の生物を追う探検家たちに迫るノンフィクションです。著者で探検家の角幡氏も2008年の捜索隊に関わり、実に大真面目に捜索していくのです。そして単独で取材を進める著者は遂に・・・!角幡氏は、暗黒の北極圏を探検した「極夜」やツアンポー渓谷を探検した「空白の5マイル」といった冒険ノンフィクションを傑作を書かれており、私がハマるきっかけにもなったのが本書です。冒険物としてまた、ミステリーとしても楽しめます!
こどもの頃、UFO墜落、ミステリーサークル発見やネス湖でネッシーを追うといった番組をテレビで見るたび、本当にいるんじゃないか?!と思っていた一人でした。(今もちょっと信じている。)本書は、ヒマラヤで発見された雪男(イエティ)の目撃情報をきっかけに、未知の生物を追う探検家たちに迫るノンフィクションです。著者で探検家の角幡氏も2008年の捜索隊に関わり、実に大真面目に捜索していくのです。そして単独で取材を進める著者は遂に・・・!角幡氏は、暗黒の北極圏を探検した「極夜」やツアンポー渓谷を探検した「空白の5マイル」といった冒険ノンフィクションを傑作を書かれており、私がハマるきっかけにもなったのが本書です。冒険物としてまた、ミステリーとしても楽しめます!
新解さんの謎
赤瀬川原平『新解さんの謎』文春文庫1999年
人生の糧になるでもなく、ただただ面白くて何度も手にとってしまう本があります。
この「新解さん」がまさにその一つ。皆さんご存知の赤い国語辞典「新明快国語辞典」。辞書に現れる男性の存在!単語の用例から、新明快国語辞典=新解さんの人格が明らかになっていきます。路上観察学会、トマソンなど世の中を「発見」する赤瀬川氏の爆笑必至のエッセイです。
人生の糧になるでもなく、ただただ面白くて何度も手にとってしまう本があります。
この「新解さん」がまさにその一つ。皆さんご存知の赤い国語辞典「新明快国語辞典」。辞書に現れる男性の存在!単語の用例から、新明快国語辞典=新解さんの人格が明らかになっていきます。路上観察学会、トマソンなど世の中を「発見」する赤瀬川氏の爆笑必至のエッセイです。
いのちの終いかた
下村幸子『いのちの終いかた』NHK出版2019年
家で死ぬということ、当たり前であったことが、今ではそのほとんどが病院で亡くなるという現実。NHK BSで放送されたドキュメンタリーの映画化を機に書籍化されたものです。
森鴎外の孫でもある東大医学部出身の小堀医師の往診に密着していきます。患者や家族は、それぞれに独居、障がい、経済的事情などを抱えています。こうした患者たちに厳しくも優しく寄り添い、最後の日まで携わる医師たちの日々に胸が熱くなります。本書を読んで、母を亡くしたときのことを思い、もっとこうしてあげればよかったのではと思いました。
執筆された下村さんは番組ディレクターとして、幾つもの現場で死に立ち会う中で、ご自身のメンタル面も辛くなったそうです。本書には、それでも撮り続けた彼女の使命感のようなものを感じます。
家で死ぬということ、当たり前であったことが、今ではそのほとんどが病院で亡くなるという現実。NHK BSで放送されたドキュメンタリーの映画化を機に書籍化されたものです。
森鴎外の孫でもある東大医学部出身の小堀医師の往診に密着していきます。患者や家族は、それぞれに独居、障がい、経済的事情などを抱えています。こうした患者たちに厳しくも優しく寄り添い、最後の日まで携わる医師たちの日々に胸が熱くなります。本書を読んで、母を亡くしたときのことを思い、もっとこうしてあげればよかったのではと思いました。
執筆された下村さんは番組ディレクターとして、幾つもの現場で死に立ち会う中で、ご自身のメンタル面も辛くなったそうです。本書には、それでも撮り続けた彼女の使命感のようなものを感じます。
普通の住宅、普通の別荘
中村好文『普通の住宅、普通の別荘』TOTO出版2010年
わが家は子どもの頃から引越しの多い家で、その度に大きくなったり、小さくなったりと、住む家もまちまちでしたが、こども心に大きな家への憧れがありました。結婚して家の購入を考え始めた頃、書店でたまたま手にとったのが本書でした。その住宅には派手さもない、大きくもない、どこか大らかで、優しさのある写真がたくさん掲載されていて、いつかはこの人に設計してもらいたいと憧れを抱いていましたました。中村さんは住宅建築で活躍されている建築家として200軒以上の住宅設計をされています。
特に印象に残っているのは、彼が住宅に求めるものが「エンケルであること」そして「パティーナを目指していること」でした。「Enkel(エンケル)」はスウェーデン語で「普通でちょうどいい」という意味があり、「Patina(パティーナ)」は英語で経年劣化の美しさがある「古艶、古趣」など意味です。紹介された住宅を見ていると、大きな家が欲しいとかいう考え方はなくなります。見栄を張るためではなく、身の丈にあった住宅を建てるという考え方は、仕事の仕方や人生を送る上でも、とても参考になるのではないでしょうか。
わが家は子どもの頃から引越しの多い家で、その度に大きくなったり、小さくなったりと、住む家もまちまちでしたが、こども心に大きな家への憧れがありました。結婚して家の購入を考え始めた頃、書店でたまたま手にとったのが本書でした。その住宅には派手さもない、大きくもない、どこか大らかで、優しさのある写真がたくさん掲載されていて、いつかはこの人に設計してもらいたいと憧れを抱いていましたました。中村さんは住宅建築で活躍されている建築家として200軒以上の住宅設計をされています。
特に印象に残っているのは、彼が住宅に求めるものが「エンケルであること」そして「パティーナを目指していること」でした。「Enkel(エンケル)」はスウェーデン語で「普通でちょうどいい」という意味があり、「Patina(パティーナ)」は英語で経年劣化の美しさがある「古艶、古趣」など意味です。紹介された住宅を見ていると、大きな家が欲しいとかいう考え方はなくなります。見栄を張るためではなく、身の丈にあった住宅を建てるという考え方は、仕事の仕方や人生を送る上でも、とても参考になるのではないでしょうか。
伊丹十三の映画
「考える人」編集部(編)『伊丹十三の映画』新潮社2007年
好きな映画はその時々で変わりますが、邦画・洋画通して常にベストテンの1本に入っているのが伊丹十三監督作「マルサの女」です。のちに「女シリーズ」として伴侶の宮本信子を主役に何本か撮られましたが、オススメはやはりマルサの女。シリアスな内容の中にもエンターテイメントがしっかりあるのは、俳優の演技力だけでなく、演出と台本の力が大きいのでしょう。俳優、エッセイスト、編集者など多彩な顔を持つ氏の集大成が映画製作だったのかもしれません。本書では、伊丹作品に出演した俳優のインタビューが掲載されています。常連俳優の津川雅彦は「一言一句台本通り」「息継ぎの間合いまで指示がある」という監督の徹底ぶりを語っています。映画秘話もたくさんあり、伊丹ファンにはたまらない一冊です。
好きな映画はその時々で変わりますが、邦画・洋画通して常にベストテンの1本に入っているのが伊丹十三監督作「マルサの女」です。のちに「女シリーズ」として伴侶の宮本信子を主役に何本か撮られましたが、オススメはやはりマルサの女。シリアスな内容の中にもエンターテイメントがしっかりあるのは、俳優の演技力だけでなく、演出と台本の力が大きいのでしょう。俳優、エッセイスト、編集者など多彩な顔を持つ氏の集大成が映画製作だったのかもしれません。本書では、伊丹作品に出演した俳優のインタビューが掲載されています。常連俳優の津川雅彦は「一言一句台本通り」「息継ぎの間合いまで指示がある」という監督の徹底ぶりを語っています。映画秘話もたくさんあり、伊丹ファンにはたまらない一冊です。
原田芳雄 風来去
原田章代『原田芳雄 風来去』日之出出版2012年
惜しくも亡くなられた俳優・原田芳雄のディスコグラフィーやプライベートまでを網羅した一冊。すごくマニアックな本のご紹介です。
若い方には氏を知らない方も多いかもしれないですね。私は映画好きで、邦画・洋画を問わずよく見ますが、ホラー映画「リング」テレビ版で初めて拝見したのが印象的でした。
ここで思い出話を少々。社会人になってまもない頃、料理屋で原田芳雄氏とばったり遭遇。何気ない会話をした後に、たまたま手に持っていた映画雑誌にサインをもらい、握手。彼の大きな手と暖かな笑顔にすっかりファンになってしまいました。本書でも多くの俳優たちが彼に魅了され、慕っていることがよく分かります。これをきっかけに、「ツゴイネルワイゼン」「大鹿村騒動記」など名作映画を見てみるのもいいですね。
惜しくも亡くなられた俳優・原田芳雄のディスコグラフィーやプライベートまでを網羅した一冊。すごくマニアックな本のご紹介です。
若い方には氏を知らない方も多いかもしれないですね。私は映画好きで、邦画・洋画を問わずよく見ますが、ホラー映画「リング」テレビ版で初めて拝見したのが印象的でした。
ここで思い出話を少々。社会人になってまもない頃、料理屋で原田芳雄氏とばったり遭遇。何気ない会話をした後に、たまたま手に持っていた映画雑誌にサインをもらい、握手。彼の大きな手と暖かな笑顔にすっかりファンになってしまいました。本書でも多くの俳優たちが彼に魅了され、慕っていることがよく分かります。これをきっかけに、「ツゴイネルワイゼン」「大鹿村騒動記」など名作映画を見てみるのもいいですね。
奇蹟の画家
後藤正治『奇蹟の画家』講談社BOOK倶楽部2009年
画家 石井一男が描く絵、特別な存在を描くわけではないが、ふと何かを感じさせるその優しい女神像に多くの人たちが魅了されています。
初めて存在を知ったのは、テレビ「情熱大陸」の特集でした。慎ましい生活の中で、アトリエと呼ぶには質素な家で、静かに、そしてゆっくりと絵を描き続ける様子が映し出されていました。画廊とは縁のなかった私も石井さんの絵を見たいと思い、神戸を訪れたその日に絵を購入しました。
本書では、被災地・神戸を勇気付けたり、亡き子供を思い起こす氏の絵画に魅了された普通の人々の様子が書かれています。女神の優しい眼差しが、多くの人びとを癒してきたことがよく分かります。
画家 石井一男が描く絵、特別な存在を描くわけではないが、ふと何かを感じさせるその優しい女神像に多くの人たちが魅了されています。
初めて存在を知ったのは、テレビ「情熱大陸」の特集でした。慎ましい生活の中で、アトリエと呼ぶには質素な家で、静かに、そしてゆっくりと絵を描き続ける様子が映し出されていました。画廊とは縁のなかった私も石井さんの絵を見たいと思い、神戸を訪れたその日に絵を購入しました。
本書では、被災地・神戸を勇気付けたり、亡き子供を思い起こす氏の絵画に魅了された普通の人々の様子が書かれています。女神の優しい眼差しが、多くの人びとを癒してきたことがよく分かります。
岐路の前にいる君たちに~鷲田清一式辞集~
鷲田清一『岐路の前にいる君たちに~鷲田清一式辞集~』朝日出版社2019年
京都学生広報部の学生たちとともに、京都市芸術大学学長をされていた鷲田先生を訪ね、インタビューを行った際に、卒業式は皆舞い上がって私の話はなかなか心に残らない。だから年中、心にグサッと刺さる言葉探しているんだよ。という事おっしゃていました。この「帰路の前にいる君たちに」は鷲田先生が大学の入学式、卒業式で学生たちに伝えた言葉を書籍化されたものです。祝辞の書籍化はあまり聞いたことがありませんが、さすが日本を代表する哲学者の言葉は、グサリグサリと刺さります。
「人をまとめ、平均化し、同じ方向を向かせようとする動きに、最後まで抵抗するのが芸術だ」「サーヴィス社会というのは、皮肉にも市民をどんどん受け身にしていく、そして市民としての責任の意識を低下させていくものでもある」「困ったら教えてもらう、手伝ってもらうということが、あたりまえのようにできる空気こそ、社会にもっとも必要なものである」こうした投げかけに、私たち社会人が読んでもハッとさせられます。
京都学生広報部の学生たちとともに、京都市芸術大学学長をされていた鷲田先生を訪ね、インタビューを行った際に、卒業式は皆舞い上がって私の話はなかなか心に残らない。だから年中、心にグサッと刺さる言葉探しているんだよ。という事おっしゃていました。この「帰路の前にいる君たちに」は鷲田先生が大学の入学式、卒業式で学生たちに伝えた言葉を書籍化されたものです。祝辞の書籍化はあまり聞いたことがありませんが、さすが日本を代表する哲学者の言葉は、グサリグサリと刺さります。
「人をまとめ、平均化し、同じ方向を向かせようとする動きに、最後まで抵抗するのが芸術だ」「サーヴィス社会というのは、皮肉にも市民をどんどん受け身にしていく、そして市民としての責任の意識を低下させていくものでもある」「困ったら教えてもらう、手伝ってもらうということが、あたりまえのようにできる空気こそ、社会にもっとも必要なものである」こうした投げかけに、私たち社会人が読んでもハッとさせられます。
bottom of page